この記事では,題名の似ている2冊『会計の世界史』と『帳簿の世界史』の内容の共通点・相違点について比較して述べています。「どちらも興味があるけれど,1冊しか読む時間がない!」という方は,この記事で本を選ぶ参考にしていただけると幸いです。
本稿の構成は次の通りです。
- 概要
- 詳細
- 本の選択基準
1 概要
私は,『会計の世界史』を読了した後に,『帳簿の世界史』を読み始めました。読んでいる途中で気付いたのですが,似たような趣旨の本なのかなという予想に反し,これら2冊の本は,テーマとして扱う内容が結構違っていました。
『会計の世界史』(以下『会計』といいます。」)と『帳簿の世界史』(以下『帳簿』といいます。」)は,(複式)簿記・会計を題材として扱っているという点では共通していますし,これを世界史の中に位置づけてとらえているという視点も一致しています。ところが,この2冊は,示したいテーマというか,趣旨に違いがあるようでした。
まず,『会計』は,テーマの中心は,簿記・財務会計・管理会計などで,総括すると「企業会計」がメインとして書かれていました。また,複式簿記の発達や株式会社の誕生というように,会計にまつわる制度の生い立ちや発達についての話が中心となっています。
この本の書評は以前書いたことがあるので,興味のある方はよかったらそちらもご覧ください。
daigakuinjisyuusitu.hatenablog.com
それに対して,『帳簿』は,国家の財政運営や会計システムの構築,それらの監査に焦点が当てられ,「公会計」が中心になっていました。会計というより,「財政」と言い換えた方が,あるいはしっくりくるかもしれません。また,公会計の運用の困難さに焦点が当たっていたことが違いとしてあったように思われます。
そもそも,『帳簿』は翻訳されたものであり,元々のタイトルは,
“THE RECKONING : FINANCIAL ACCOUNTABILITY and the RISE and FALL of NATIONS”
です(※)。
「NATIONS」とあることからも,メインテーマが「公会計」であるとわかります。ちなみに,私は英語のタイトルの方を無視して読み始めたので,途中までこのことに気付けませんでした…。また,「RISE and FALL」とあるとおり,国家が栄えて,そして没落するまでの過程を会計という視点から見ていきたいという趣旨が伝わってきます。
(※)DeepLで翻訳すると,「償い:財務責任と国家の興亡」となりました。英語力の乏しい私が指摘するのは恐縮ですが,”reckoning”は「清算」「決算」などと訳したほうがしっくりくるかもしれません。
ただし,テーマの似通った2冊ですから,扱う題材やエピソードがかぶってくるものも結構出てきます。これについては,両者を読み比べてみても面白いかもしれません。
【!】まとめ
『会計の世界史』 → 企業会計
『帳簿の世界史』 → 公会計
2 詳細
このように,非常に似たタイトルの2冊ですが,内容面での違いも大きかったといえるでしょう。こうした大枠の内容の違い以外にも,両者には様々な特徴があります。そこで,以下ではこの2冊について,もう少し踏み込んで書いてみようと思います。
本の読みやすさでいえば,圧倒的に『会計』の方が読みやすかったです。興味深いエピソードを冒頭に持ってくるなどして,近寄りがたいイメージのある簿記や会計にすっと入っていけるように工夫されていました。『会計』は,とっつきやすくてインスタントに楽しむことができるように思いますし,会計初心者の入り口にも最適という印象を受けました。
一方で,『帳簿』の方もじっくり読んだらいろいろなことがわかって面白いと思います。国家が会計システムの維持に腐心するエピソードが本書の中で様々に語られているのですが,これらの話にはどうしても上手く管理しようとしてもできない苦労というか,人間臭さがあって興味をそそられます。
また,『帳簿』は国家との結びつきが強いので,歴史に関する記述が多かったように思われます。そのため,世界史に詳しい方は楽しみ方も広がると思いますし,世界史をあまり知らない方も世界史を一通り勉強しておいてから読んだ方がより楽しめるように思いました。私は,高校世界史を勉強していなかったので,本の記述でいまいちピンと来ない部分があったことが悔やまれます。
3 本の選択基準
まず,「読書を通じて会計を勉強したい,会計を深く理解したい!」という考えの方には,断然『会計』がおすすめです。
前述したとおり,『会計』は企業会計,『帳簿』は公会計がメインテーマです。企業会計も公会計も会計に違いはありませんが,ふつう会計について学びたいという人は,商業簿記や工業簿記などの一般企業の簿記会計について知りたいという人が多いでしょう。民間企業で働くのに役立つ会計といえば,企業会計になります。したがって,『会計』を読んだ方が学べることは多いでしょう。
次に,趣味としてじっくりと読むことを考えたら,個人的には『帳簿』がおすすめです。世界史の知識と合わせて深く読んでいけば,知見が広がるように思われます。じっくり読んだら深く楽しめるのが『帳簿』ではないでしょうか。
ちなみに,『会計』では,特に後半部分,音楽に関する話がよく登場していました。会計とのつながりを考えたら「必ずしも必要か?」とも思ったのですが,著者の趣味なのかもしれません。私は,正直意味がよくわからなかったのですが,好きな人が読んだらはまるのかもしれないです。