今回は、これぞ王道!なアイドルソング「パラソルサイダー」を分析します。
アップテンポで、明るいながらもドラマチックな展開は、聴き手の心をつかんで離しません。そこにはどんな工夫があるのでしょうか。本曲の魅力の理由を考察します。
<目次>
2-1 Aメロ
2-2 Bメロ
2-3 サビ(1番サビ)
3-1 Aメロのリハモ
3-2 サビのリハモ
※本稿をお読みいただくにあたって※
・本稿で扱う理論・用語は、原則としてサウンドクエスト(Sound Quest:音楽理論サイト)に準拠しています。
・メロディーは移動ド(キーをCにしたときのドレミ)、コードはディグリー・ネーム(ローマ数字)で記載しています。こちらもサウンドクエストに準拠している形です。
1 楽曲紹介
今回分析する楽曲はこちらです。
アーティスト:MORE MORE JUMP!
作曲:岩見陸
楽曲の耳コピはこちらからご覧ください。
メロディーとコード進行の確認用にご利用ください。正確なコードではありませんことをご留意ください。
2 1番の構造と分析(ミクロ分析)
2-1 Aメロ(動画の19小節目、0:20~)
Aメロのポイントは、メロディーの使用音、音価、出だしのタイミングを巧みに調整することにより、緩やかながらも着実に曲を進展させているところにあるでしょう。
上の図で色分けして示したように、短い16小節の間で徐々にギアが入っていることがわかります。人によって見方は様々でしょうし、最終的には作者のみぞ知るものなのでしょうが、筆者は、5段階のフェーズに分かれて展開されていると分析しました。
第1段階:Aメロの出だしは、メロディーの1小節目が休符から始まっており、メロディーの入りが小節の頭より遅れるパターンになっています。また、譜割りも4分音符と長めであることもわかります。これらの影響から、Aメロは全体的にゆったりとした控えめな印象でスタートします。
第2段階:つづく「耳をすませば」のフレーズは、8分音符を中心としたモチーフとはなっていますが、メロディーの入りは小節の頭より遅れるパターンであり、依然控えめな雰囲気です。
第3段落~第4段階:その後は、この短いモチーフが1小節単位で繰り返され、段階的に高揚感が増していきます。序盤は、フレーズの切れ目が安定音「ド」を中心に据えられています(第3段階)。その後、中盤から後半にかけては、この「ド」の部分が、だんだん高揚感を与える「ソ」に置き換えられ、A2メロ以降は、ずっと連続で「ソ」になっていますね(第4段階)。
第5段階:小節頭は「ソ」を中心としたフレーズが続きますが、終盤になるとメロディーに高い方の「ド」も登場するようになります。高い「ド」はこのパートの最高音であり、また一段盛り上がりが増しています。Aメロの最後は、低い方の「ド」で終わり、一応の着地感が出ています。
このように、出だしの遅れと4分音符の譜割り、中盤以降の8分音符中心の進行、そして安定音から高揚感のある音への緩やかな移行が組み合わさり、楽曲が徐々に進展していく感覚を生み出しています。このような構成により、わくわくとした感情がじんわりと湧き上がるような表現が実現されているのではないでしょうか。
2-2 Bメロ(動画の35小節目、0:42~)
Bメロのメロディーは驚くほどシンプルです。ゆったりとしたメロディーの動きは、まるで波間に揺れるような海の情景を思い起こさせるようですね。
つづく「きらきら~」のフレーズでは独特なリズムが取り入れられ、楽曲のフックとして機能しています。このリズムが、聴き手を惹きつけ、Bメロからサビへの流れを自然かつダイナミックに引き立てています。
2-3 サビ(1番サビ)(動画の43小節目、0:53~)
サビは、明るく弾ける「これぞ王道アイドルソング!」といった雰囲気ですね。AメロやBメロとは雰囲気が大きく変化しました。なぜここまでガラッと雰囲気を変えられたのか、コード進行、メロディーの構造、そして転調という3つの要素から分析しました。
コードの観点:基調外和音の登場
サビではコードの切り替えの多さが目立ちます。また、ベースラインの半音移動が多いことにも気付くでしょう。ベースラインの半音移動によりスケール外の音がベースラインに加わることで、一時的に安定感が揺らぎ、楽曲に大きな動きが加えられています。この動きのあるコード進行が、サビにエネルギーを与えています。
メロディーの観点:セグメント構造の変化
AメロとBメロのメロディーは、声域が「ド」から「ド」を中心とした「外向きの2セグ」構造をとっています(※)。一方、サビでは、声域が「ソ」から「ソ」を中心とした「内向きの2セグ」構造へと変化します。
AメロとBメロでは、音が高くなっても最終的に安定音「ド」に収束しますが、サビでは、音が高くなるほど「ド」から遠ざかり、最終的に「ソ」に到達します。そうすると、それまで音が高くなる(エネルギーは+)と安定感が増す(-)だったのが、サビになると音が高くなる(+)と安定音から遠ざかり高揚感が生まれる(+)ようになり相乗効果で曲のエネルギーが高まります。
この構造の変化が、サビの盛り上がりと存在感を一層引き立てています。
※厳密にはこのセグメントの外の音も登場します。理論については、サウンドクエストの「調性引力論④声域区分法」を参照してください。
転調の観点
こうしたセグメントの変化を支えているのが「転調」です。
この楽曲では、冒頭のサビからAメロ、Bメロからサビに至るそれぞれのタイミングで転調が行われています。転調の変化は調号の±1に留まる一方で、ルート音の動きは±7(もしくは±5)と大きな変化を見せます。この転調が本当に自然ですね。私は、採譜を通じて初めて転調に気づきました。
この転調によって、メロディーが「外向きの2セグ」構造から「内向きの2セグ」構造へスムーズに変化したとしても、曲を通した相対的な声域はそれほど広がらず、無理なく歌える範囲に収まっています。
3 リハーモナイズの分析(マクロ分析)
タイトルでは図々しくも「1番で終わりだなんてもったいない!」などと書いてしまいましたが、その意図は本曲の「リハーモナイズ」の手法にあります(「リハモ」などと略して呼ぶことが多くなります)。
リハーモナイズとは、簡単に言うと、同じメロディーに別のコードをあてることです。本曲は、このリハモのテクニックが曲中に散りばめられています。こうした手法は分析者にとって、絶好の分析対象でしょう。まさに「1番で終わりだなんてもったいない」のです。
3-1 Aメロのリハモ(2Aは、動画の66小節目、1:24~)
2番のAメロが1番と大きく変わっていることがわかります。
前半は、ずっしりと安定したベースながら、コード構成音はゆっくりと移動し、これから物語が動き出しそうな予感でうずうずしてしまいます。Ⅰ-Ⅰaug-Ⅰ6-Ⅰ7は典型的なコード進行であり、「ちょっとずつ音が上がっていくので、ウキウキ感・ワクワク感を表現するのにぴったりな進行」とされています。その後も穏やかなコード進行が続きますね。
2Aは、サビの盛り上がりに続く仕切り直しのパートであること、1Aをそのまま繰り返すと単調になってしまうことから、工夫が求められます。特にアレンジの面から新たなアプローチを仕掛けることが多いでしょう。本曲は、その点を作曲の面からアプローチしており、注目すべきポイントとなっています。
明るいサビの盛り上がりから一転、つづく2Aで小さな動きのコード進行を持ってくることで展開の落差が大きくなり、ドラマチックで、かつ飽きさせない効果があるといえそうです。
3-2 サビのリハモ(落ちサビは、動画の122小節目、2:41~)
本曲では、「パラソルサイダー」から始まるフレーズが実に8回も繰り返される構成になっています。
図で示したように、1番のサビはⅠの和音で明るく安定した始まり、すごく大きく見れば「カノン進行」の派生のような動きをしています。それに対して、サビ2周目はふんわりⅣの和音で始まるコード進行です。
1周目は転調直後ということもあり、Ⅰで転調を確定させたかった面もあるとは思いますが、全体的にリハモが行われていることで、雰囲気に違いが出ています。
頭サビ、落ちサビも見てみると、コードの切り替えが1小節単位となり、ひとつひとつの和音をじっくり味わいたいといったところでしょうか。
1番のサビ1周目以外はすべて4-5-6系のコード進行をしており、最後の1個のところをどうするかで雰囲気を微調整しているような感じです。4-5-6進行は、最後の1個で遊べるところが、おいしいポイントですよね。
4 おわりに
今回の分析を総括すると、聴き手を飽きさせない工夫が、作曲のアプローチからさりげなく散りばめらていた点が印象的でした。
転調によりはじけるような眩しいサビが実現されていました。また、シンプルなメロディーのBメロ、ガラッとリハモで衣替えをした2Aは、あえて抑えた構造とすることで、盛り上がるパートとの対比がより強まります。主役はもちろん、優秀なサポート役がいてこそ曲全体が完成されていくのです。
ぜひじっくりと楽曲のすべてを楽しんでほしいです。それでは、次回はまた別の楽曲でお会いしましょう!