大学院自習室

筆者が学生時代に作成した記事の置き場です。

判例報告資料の書き方(租税法)

この記事は,法学部のゼミ・演習等で行われる判例報告資料の作り方を,ポイントとともにお伝えするものです。

これから判例報告を初めてされるという方のお役に立てば幸いです。

なお,この記事は,租税法の判例を前提としています。ほかの法律である場合や,指導教員によっても報告の仕方は変わると思われますので,その点はご了承ください。

この記事の構成は次のようになっています。

1 総説 判例報告の作り方をポイントとともに整理しています。

2 報告資料例 判例報告の一例を載せています。

 

1 総説

判例報告のアウトラインは,次に示すような感じです。

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<タイトル・事件番号等>

Ⅰ 事案の概要 ……(1頁)

Ⅱ 争点・当事者の主張 ……(1頁)

・争点

・原告(納税者側)の主張

・被告(課税庁側)の主張

Ⅲ 裁判所の判断 ……(1頁×判決数)

・地裁判決

・高裁判決

最高裁判決

Ⅳ 検討 ……(3頁)

・問題の所在

・学説

私見

Ⅴ 関係法令等

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それぞれの項目で,大まかな分量の目安をかっこ書きで示してあります。なお,関係法令については,分量の計算上無視しています。

 

もちろん,事件によっては,事案が複雑で説明を多く要したり,争点が複数あって「当事者の主張」や「検討」のボリュームが多くなったりと,分量について一概にいうことはできません。あくまで目安として参考にする分には,このくらいがちょうどいいかなと私は考えています。

 

2 報告資料例

判例報告資料の作成の仕方をより具体的に説明するために,実際の判例報告にコメントを入れていく形で説明しようと思います。

報告資料部分は黒で,コメント部分は青で入れてあります。

 

なお,注意点ですが,これは私が税法を勉強したての頃に作成した報告資料をほぼ変更なしで貼り付けたものです。したがって,内容に不十分な点もあると思われ,これをそのままコピペして提出してしまうとゼミ等で指導教員からいろいろ突っ込まれても文句は言えません。判例報告資料を作成される場合は,ご自身の力で作った方がいいと思います。

 

形式面については,できるだけミスがないようチェックしたつもりです。主に形式的な面で資料作成方法の参考にしていただければ幸いです。

 

ではいきます。

 

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202X年X月X日

○○ゼミ

 名前

 

免税事業者の課税売上高

 

  • 最判平成17年2月1日民集59巻2号245頁
  • 東京高判平成12年1月13日民集59巻2号307頁
  • 東京地判平成11年1月29日民集59巻2号296頁

   ↑裁判所・日付・収録文献をいれます。

Ⅰ 事案の概要

株式会社X(原告・控訴人・上告人)は,平成5年10月1日から同6年9月30日までの課税期間(以下,「本件課税期間」という。)の消費税について,本件課税期間に係る基準期間 (同3年10月1日から同4年9月30日までの課税期間。以下,「本件基準期間」という。)における課税売上高が3000万円以下であるとし,本件課税期間において消費税法(以下,「法」という。)9条1項の規定により消費税を納める義務を免除される事業者(以下,「免税事業者」という。)に該当するとして,申告をしなかった。

本件基準期間におけるXの売上総額は実際には3052万9410円であったが,Xは,本件基準期間において免税事業者に該当しており,課税売上高の算定上,納税義務を免除される消費税に相当する額が上記売上総額から控除されるべきであるとの見解を採っていた。この見解によれば,本件基準期間におけるXの課税売上高は計算上3000万円以下となるため,Xは,本件課税期間においても免税事業者に該当すると判断し,本件課税期間の消費税について申告をしなかったものである。

税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)は,平成7年11月28日付けで,Xが本件課税期間にて免税事業者に該当しないとして,本件課税期間のXの消費税の決定及び無申告加算税の賦課決定をした。

Xは,Yに対し,本件決定が違法であるとしてその取消しを求めた。

【!】租税判例は、納税者をX、課税庁をYで統一します。

Ⅱ 争点・当事者の主張

 本件の争点は,免税事業者についても,基準期間における課税売上高の計算に際して課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額に相当する額を控除すべきか否かにある。

 

(1)Xの主張

 免税事業者が行う課税資産の譲渡等についても,消費税が課され,単に納税義務が免除されるにすぎないから,基準期間の課税売上高の計算においては,法9条2項1号に従い,売上総額から免税事業者が納付すべき消費税額に相当する額を控除すべきである。

 法9条1項は,基準期間における課税売上高が3000万円以下である者については,消費税を納める義務を免除すると規定し,この課税売上高とは,法9条2項によれば,基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額から,売上げに係る税抜対価の返還等の金額を控除した残額をいう。そして,法28条1項は,課税資産の譲渡等の対価の額とは課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする,と規定している。したがって,基準期間において課税事業者であったか免税事業者であったかにかかわらず,売上高から課されるべき消費税に相当する額を控除した金額をもって,免税事業者に当たるかどうかを判定するのが,文理上自然な解釈である。

このことは,法4条1項が免税事業者と課税事業者とを区別することなく「事業者が行った資産の譲渡等には,消費税を課する。」と規定し,法9条1項が法6条1項とは異なり,「消費税を納める義務を免除する」と規定して,いったん発生した義務を課税期間終了後事後的に消滅させる意味の「免除」という用語を使っていること,法9条2項は,小規模事業者が免税事業者に当たるか否かを判定する規定であるが,法28条1項を借用して「課されるべき消費税に相当する額」を控除する旨定めているのであり,控除すべき「課されるべき消費税に相当する額」が存在しない場合をも予定しているとは考えられないことからも明らかである。

 

(2)Yの主張

免税事業者は,納税義務を免除され,法に規定する納税義務を前提とした諸規定の適用を受けないことになり,免税事業者が行う課税資産の譲渡について課されるべき消費税は存しないから,基準期間の課税売上高の計算において,売上総額から控除すべき消費税額に相当する額はない。

免税事業者には,申告を前提とする消費税の納付義務も発生しない。したがって,免税事業者の行う資産の取渡等の対価の額の中には免税事業者が納付すべき消費税額に相当する額,すなわち「課されるべき消費税額に相当する額」は含まれていない。したがって,本件基準期間において免税事業者であった原告の課税売上高の計算においては,除外されるべき「消費税額に相当する」は存しなかったことになる。

法4条は課税対象について規定し,納税義務者は法5条の規定するところであるが,法9条1項は法5条の例外として免税事業者を規定するものであるから,免税事業者には納税義務が免除されているのであって,納税義務を発生させた上でこれを免除するものではない。

 

Ⅲ 裁判所の判断

(1)第一審判決(請求棄却) ←結論を簡潔に書きます。

「法9条に規定する免税事業者の制度は,消費税の執行において生ずる種々の納税事務負担コストが相対的に高くつくものと考えられる小規模零細事業者に納税事務負担を軽減する趣旨に出たものであるが,その条文見出しのみならず同条の趣旨に照らして,法9条1項は法5条の規定により『消費税を納める義務』があるとされた者のうち免税事業者に該当する者について『第5条第1項の規定にかかわらず』『消費税を納める義務』を免除するもの,すなわち,法5条に規定された課税要件としての納税義務者の範囲を限定するものであって,発生した消費税を免除するものではないのである。仮に原告の主張するように,免税事業者についても法4条又は法5条によって課されるべき消費税についての納税義務が生じ,法9条によってこれが免除されるものとすれば,消費税の免税規定(法7条,8条)又は税額控除(法30条)と同様,法9条は法5条の規定に変更を加えるものではないことになるから,『第5条第1項の規定にかかわらず』との限定も不要となったはずである。

たしかに,『免除』との文言は,納税義務の存在を前提とするといえるが,法5条は課税要件としての納税義務者を規定し,その例外規定である法9条も課税要件としての納税義務者について法5条の例外を規定したものであり,課されるべき消費税の免除を規定するものではないのであるから,法9条は,所定の要件を具備した事業者を法5条に規定する納税義務者から除外するとの趣旨に解すべきものである。」

「したがって,納税義務者の範囲は,法5条により,『この法律により』との留保の下に広く事業者を含むことを原則とするが,法9条の規定により限定されているのであって,免税事業者にも法5条又は法4条によって消費税が課された上で法9条1項によって納税義務が免除されると解すべきものではない。」

「税抜売上総額は,(…中略…)法28条1項が課税標準であると規定する課税資産の譲渡等の対価の額を合計した金額である。ところで,課税標準の算出に当たり課税資産の譲渡等の対価の額から右譲渡等につき課されるべき消費税額に相当する額を控除する趣旨は,生産から流通を経て消費に至る過程において,課税資産の譲渡等に課される消費税はその代価中に転嫁されていくため, (…中略…)法28条1項にいう課税資産の譲渡等の対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額の中には右譲渡等において譲受人に転嫁された消費税額に相当する額が含まれることになることから,課税標準の算出に当たっては,課税資産の譲渡等の対価の額から譲受人に転嫁された消費税額に相当する額を控除すべしとすることにある。

ところで,法9条1項は基準期間における課税売上高をもって免税事業者となるべき小規模事業者の区分の基準とし,同条2項は税抜売上総額から課税売上高を計算するものであるが,『課税資産の譲渡等の対価の額』の意義を法9条2項と法28条1項とで別異に解釈すべき理由はないのであるから,基準期間において免税事業者である者については課税標準を論ずる意味はないにしても,税抜売上総額とは売上総額から当該事業者の行った課税資産の譲渡等に課されるべき消費税額を控除した金額と解すべきである。」と判示した。

【!】かぎカッコ「」の中は裁判所の文章を完全にコピペです。中身をいじってはいけません。ただし、裁判所の文章の中のかぎカッコ「」は、二重かぎカッコ『』にします。

【!】裁判所の文章の途中を省略する場合は、(…中略…)、かっこ書き部分を省略するときは(…括弧内省略…)などとします。

 

(2)第二審判決(控訴棄却)

 「法4条1項(課税の対象)は,その文言及び見出しからみて,納税義務者を定めた規定ではなく,課税の対象(課税物件)を定めた規定である。納税義務者については,

 

(編集の都合上,中略しています。)

 

課税要件等の明確性が厳しく問われている現行の租税法規の下では、控訴人の言うような規定の文言から離れた解釈を採用することは困難であるといわざるをえない。」と判示した。

 

(3)最高裁判決(上告棄却)

「法9条1項に規定する『基準期間における課税売上高』とは,事業者が小規模事業者として消費税の納税義務を免除されるべきものに当たるかどうかを決定する基準であり,事業者の取引の規模を測定し,把握するためのものにほかならない。ところで,資産の譲渡等を課税の対象とする消費税の課税標準は,事業者が行う課税資産の譲渡等の対価の額であり(法28条1項),売上高と同様の概念であって,事業者が行う取引の規模を直接示すものである。そこで,法9条2項1号は,上記の課税売上高の意義について,消費税の課税標準を定める法28条1項の規定するところに基づいてこれを定義している。

すなわち,法9条2項1号は,上記の課税売上高とは,基準期間が1年である法人の場合,基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(法28条1項に規定する対価の額をいう。)の合計額から所定の金額を控除した残額をいうものと規定する。そして,同項は,『課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする。)とする。』と規定する。

法28条1項の趣旨は,課税資産の譲渡等の対価として収受された金銭等の額の中には,当該資産の譲渡等の相手方に転嫁された消費税に相当するものが含まれることから,課税標準を定めるに当たって上記のとおりこれを控除することが相当であるというものである。したがって,消費税の納税義務を負わず,課税資産の譲渡等の相手方に対して自らに課される消費税に相当する額を転嫁すべき立場にない免税事業者については,消費税相当額を上記のとおり控除することは,法の予定しないところというべきである。

以上の法9条及び28条の趣旨,目的に照らせば,法9条2項に規定する『基準期間における課税売上高』を算定するに当たり,課税資産の譲渡等の対価の額に含まないものとされる『課されるべき消費税に相当する額』とは,基準期間に当たる課税期間について事業者に現実に課されることとなる消費税の額をいい,事業者が同条1項に該当するとして納税義務を免除される消費税の額を含まないと解するのが相当である。」(下線筆者)と判示した。

 ↑裁判所の文章で強調したい部分があるときは、このように下線をひきます。

Ⅳ 検討

1.問題の所在

・法9条と法28条はそれぞれ目的を異にする規定である。最高裁は,法9条において法28条を借用しているが,これはどのように解釈されるべきか。

・法9条1項が規定する免税事業者制度は,小規模零細事業者の事務負担を軽減するために導入された制度と説明される。小規模零細事業者に該当するかどうかの基準として事業規模を用いているが,ここにいう事業規模とは何か。

【!】ゼミ等で議論するうえで、一番大事な部分です。慎重に考えて書きます。

 

2.学説

(1)田中治氏[1](控除説)←主張を簡潔にまとめます。

 「9条1項は,冒頭に『事業者のうち』という文言を用いるだけである。規定上は,『課税事業者』又は『免税事業者』の用語は全く存在せず,免税事業者をどのように取り扱うべきかについて,法は沈黙しているというべきであろう。」と述べたうえで,免税事業者の取り扱いについて,「法は,基準期間における課税売上高の多寡によって,2年先の納税義務の存否を決めようとするのであるから,課税売上高の計算方法は当然に一つである。(…中略…)9条は,課税売上高の定義を直接しないで,28条1項の規定(課税標準の規定)をそのまま借用ないし転用したのであって,その計算方法をもって,基準期間において課税事業者と免税事業者とを区別することなく,判別しようとしたのである。」

 「私は,裁判所の意見とは異なり,前者の考え方がより妥当だと考える。(…中略…)『事業者』のうち『基準期間における課税売上高』が3000万円以下である者の2年後の納税義務を免除する』という定め方からすれば,法は,基準期間において課税事業者と免税事業者とを区別することを予定していない,というべきである。立法論としては,そのような区別は可能であろうが,明文の根拠規定なしに,そのような区別をすることは,法解釈の枠を超えた立法的な措置というべきであって,このような区分は,租税法律主義の観点からみて,相当の疑問がある。」

 

(2)金井恵美子[2]氏(非控除説)

 「消費税法は,最終消費者にその負担を求め,納税義務者である事業者が税負担を転嫁することを予定して設計されたものであるが,個々の取引において税の転嫁が実現したかどうかについては関与しない。取引額の算定に当たっては,課税事業者であっても消費税を上乗せできない場合があるが,それは,市場における価格形成の問題であり,実体法上,現実に上乗せして受領した税額があるかどうかにかかわらず,その課税期間において行った課税資産の譲渡等につき,収受した総額から計算上の税抜課税売上高を求める手法を採用している。

 税額を上乗せしたかどうか,取引当事者が税の存在を認識したかどうかは,税額計算に何らの影響も及ぼさないのである。

 法28条は,このことを表現するために『課されるべき消費税額に相当する額』という文言をおいたものと考えられる。

 課税標準は,納付すべき消費税額を計算する場合の基礎であり,課税事業者であることを前提にしている。(…中略…)したがって,『べき』という表現,『相当する額』という表現は,免税事業者について計算する場合を想定しておかれたものではなく,税額の計算の基礎となる現実に課税される取引については,当事者の認識がどうであろうと消費税は存在する,という意味で使用されているものであろう。」

【!】ここも、かぎカッコの中は完全にコピペです。

【!】私は、ここに挙げたものの他、2つの文献から引用し(それぞれ省略しています。)、合計4つの見解を載せました。引用する文献は、のちに検討しやすいように、選び方に工夫が必要です。例えば、同じ見解をしている文献をいくつも引用しても、あまり意味がありません。

 

[1] 田中治「判批」税理43巻6号(1999)15頁

[2] 金井恵美子「判批」月刊税務事例38巻1号(2006)16頁

 ↑引用した文献を脚注にいれます。なお、この事件についての判例評釈であれば、「判批」と省略して書いて構いません。

3.私見

 最高裁判決に賛成である。

(1)法28条1項の解釈について

法28条は,「課税資産の譲渡等につき課されるべき」と表現される文言を9条1項の規定に借用した場合には,その課税資産の譲渡等は基準期間におけるものと解するのが自然である。ここで,その基準期間において免税事業者は,「国内において行つた課税資産の譲渡等につき,……

 

報告者であるあなたの私見を書きます。以下省略します。

なお,「私見」については,A4サイズに普通の文字サイズで,だいたい1.3ページくらいのボリュームになりました。

 

Ⅴ 関係法令等

消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの) ←事件当時の条文をもってきます。

9条

 事業者のうち,その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下である者については,第5条第1項の規定にかかわらず,その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき,消費税を納める義務を免除する。ただし,この法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。

2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは,……

 

分量の都合により,以下省略します。

なお,「関係法令等」については,9条と28条(1項)を抜粋し,だいたい0.8ページくらいのボリュームになりました。

 

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以上です。

ここまでを全部合わせて、A4で10ページになりました。

 

[2022/07/05追記]

当ブログでは、裁判例等についてまとめた記事をいくつか書いています。それらの記事のリンクを以下に掲載しておきます。形式面が必ずしも判例報告用というわけではないですが、事例の整理の仕方等、参考になる点があるかもしれないです。

 

daigakuinjisyuusitu.hatenablog.com

 

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