この本は,タイトルで「スタバではグランデを買え!」と,購入すべきドリンクのサイズを命令文で指示してくるという,インパクトのあるタイトルです。
しかし,本の内容については,サブタイトルにもあるように,経済学に関するもので,特段変なことが書いているわけではありませんでした。むしろ,一般の人向けに経済学のエッセンスを伝える良書だと思われました。
かねてよりこの本の存在は知っていましたが,特に理由もなく敬遠していました。ところが,最近(2021年です。)になってようやく読んでみることにしました。
読了したので,本の内容とともに,簡単に私の私見を述べていこうと思います。本稿をきっかけに,この本について興味を持っていただけたら,また,読むかどうか迷っている方の参考になれば幸いです。
本稿は,次のような構成となっています。
1 基本情報
2 概要・要旨
3 私見
4 最後に…「読むかどうか」
1 基本情報
著者:吉本佳生
経済学者。ほかにも,著書がたくさんあるみたいです。
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2007/9/13
ボリューム:284頁
2 概要・要旨
私たちが普段生活する中で,同じ商品なのに販売場所によって,その価格が変わっていることに気付くことがあります。本書では,ペットボトルのお茶を例として挙げていました。
私が調べてみたところでも,同じ商品であるペットボトルのお茶の価格が,
・自販機で買えば160円
・コンビニで買えば128円
・スーパーで買えば84円
・百円ショップで買えば108円
などと,価格が大きく違っていることがわかりました。
このように,同じ商品であっても異なる価格で販売されていることは珍しいことではないです。価格が大きく異なることも少なくないといえます。
では,それはなぜなのでしょうか。このことが,本書の全体を通した問題意識となっています。
そして,著者は,そういった価格の差を「コスト」に着目して説明しています。
例えば,先ほどの例のペットボトルのお茶であれば,スーパーで買うのが一番得なはずです。一方,自販機では,その倍近い値段で売られています。
直感的に考えられるように,スーパーと自販機では,買い物にかかる手間が異なります。自販機は比較的そこら中にあり,すぐにお茶を買うことができます。一方,スーパーはそこら中にあるわけではないので,買いに行くまでの移動時間がかかります。また,スーパーに行って,お茶を手に取って,レジを通って,…などという面倒くささもあります。
このように,スーパーは自販機に比べて,買い物にかかる手間(時間や労力)がかかります。
著者は,こうした時間や労力についても,広い意味での「コスト」としてとらえ,価格という意味での直接的な「コスト」と手間という広い意味での「コスト」を両方検討して,消費者はより有利な行動をとると述べています。
本書では,このほかにも,次に示すような問題についても検討しています(目次の一部抜粋)。
第1章 ペットボトルのお茶はコンビニとスーパーのどちらで買うべきか
第2章 テレビやデジカメの価格がだんだん安くなるのはなぜ?
第3章 大ヒット映画のDVD価格がどんどん下がるのはなぜか?
第4章 携帯電話の料金はなぜ、やたらに複雑なのか?
第5章 スターバックスではどのサイズのコーヒーを買うべきか?
ここに示したのはその一部で,ほかの問題についても論じており,それらについても一貫して,「コスト」に着目して説明をしています。
本書は,初版が2007年であり,携帯料金の話など若干話題が古くなっている感は否めません(消費税も5%時代)。しかし,その検討の根底にある経済理論は変わるものではないことから,初版からある程度時間が経過した今から読むとしても,本書の価値は変わらないであろうと思います。
3 私見
先ほど目次の抜粋でも示したように,本書は,経済学,特に価格の決まり方という観点から身の回りの身近な疑問にアプローチするという構成をとっています。
私は,一応大学で経済学を勉強していたので,「ああ,あのモデルにあてはめてるのね」と気付く場面もあり,「こう応用してきたか」みたいな読み方ができて,全体を通して面白く読むことができました。
ただし,学問として成立している経済学(経済理論)と現実の経済現象には一定の相違があるものです。
もちろん,それ自体は問題であるわけではありません。経済学自体が現実社会の具体的な現象を捨象して理論を組み立て,そのうえで得られる成果というものも大変多いからです。
ところが,一般書として,それを経済学初心者の読者でもついてこられるように説明しようとすると,やはりところどころ無理そうな(厳密さを欠くような)説明もあるようです。その点について指摘した書評もありました(注)。
とはいえ,私の私見としては,学ぶことや思うところも多く,全体として満足のいく一冊でした。特に,本書の前半部分(おおむね,先ほど抜粋した目次の項目)は「なるほど」と思うところもしばしばあり,前半部分だけでも十分読んでよかったと思います。
4 最後に…「読むかどうか」
本書の著者は,
「私としては,『日本でふつうに暮らしているような生活者が,自分なりに楽しく生活するためには,経済の仕組みをどう理解したらいいのか?』を説明したいと考えて,本書を書」いたと述べています。
そして,本書の全体を通して,「これは経済学のこの部分が根底にあるな」と気付くことがあり(私の勉強不足のため,間違った納得の仕方をしているところもあると思います。),そうした基礎理論をもとに,身の回りの事象の説明を試みています。
例えば,コンビニ大手のローソンが,通常のコンビニ店舗と,いわゆる「百円ローソン」を展開しているが,これが商品の「仕入れ」の面で有利となっていますが,その理由についても,「価格差別」という考え方で説明しています。
このように,経済学の考え方を日常生活や企業の戦略に応用して説明しており,シンプルに考え方・発想法としても学ぶことが多いと考えます。
もちろん,その現実へのあてはめは,ざっくりとしたものになっている場合もあり,必ずしも厳密とは言えないかもしれませんが,本書の説明で十分使えるようになっているはずです。したがって,経済学の考え方を日常生活(や,あるいは仕事)に使ってみたいと考えている場合には,本書を読んでみる価値があると思います。
(注)[書評]スタバではグランデを買え! 価格と生活の経済学 (吉本佳生): 極東ブログ (cocolog-nifty.com)(最終確認日:2021年11月21日),ほか。