大学院自習室

筆者が学生時代に作成した記事の置き場です。

『租税判例百選[第7版]』における納税者勝訴率に関する調査

この記事は,別冊ジュリスト『租税判例百選[第7版]』に掲載されている判例について,その裁判結果を納税者勝訴率に着目して調査したものである。単に勝訴率の集計を行ったほか,裁判所別・争点別の勝訴率も集計した。

本稿の構成は次の通りである。

 

<目次>

Ⅲ調査結果
Ⅰ調査のきっかけ
Ⅱ調査の目的・方法
Ⅳ結果の検討
Ⅴ注意点

 

この記事においてもっとも意味のある記述となる「調査結果」を先に示してある。余裕があれば,その後の文章にも目を通していただけると幸いである。

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Ⅲ調査結果

1 裁判結果

租税判例百選[第7版]・裁判の結果

〇…納税者勝訴,●…納税者敗訴

事件番号 論点 地裁 高裁 最高   事件番号 論点 地裁 高裁 最高
1 序説   65 年度帰属
2 序説   66 年度帰属
3 序説   67 年度帰属
4 序説 該当なし   68 年度帰属
5 序説   69 年度帰属 該当なし
6 序説   70 国際課税 該当なし
7 序説   71 国際課税
8 序説 該当なし 該当なし   72 国際課税 該当なし
9 序説 該当なし   73 国際課税 該当なし
10 序説   74 国際課税
11 序説 該当なし 該当なし   75 国際課税
12 序説   76 国際課税 該当なし 該当なし
13 序説   77 国際課税 該当なし
14 序説   78 国際課税 該当なし 該当なし
15 序説 該当なし 該当なし   79 相続
16 序説   80 相続
17 序説   81 相続
18 序説 該当なし   82 相続 該当なし
19 序説   83 相続
20 序説   84 相続 該当なし
21 総論   85 相続
22 総論   86 相続 該当なし
23 総論   87 相続 該当なし
24 総論   88 消費 該当なし 該当なし
25 総論   89 消費 該当なし 該当なし
26 総論   90 消費
27 総論   91 消費 該当なし
28 総論 該当なし   92 消費 該当なし
29 総論   93 消費 該当なし
30 所得   94 消費
31 所得   95 固定資産
32 所得   96 固定資産
33 所得   97 固定資産
34 所得   98 固定資産
35 所得 該当なし 該当なし   99 固定資産
36 所得 該当なし   100 実体法他
37 所得 該当なし   101 実体法他
38 所得   102 実体法他
39 所得   103 実体法他
40 所得   104 手続
41 所得   105 手続
42 所得   106 手続
43 所得 該当なし   107 手続
44 所得   108 手続
45 所得   109 手続
46 所得   110 手続
47 所得   111 手続
48 所得   112 手続
49 所得   113 手続
50 所得   114 手続
51 法人   115 手続
52 法人   116 手続
53 法人 該当なし   117 手続
54 法人   118 手続
55 法人   119 争訟
56 法人   120 争訟
57 法人   121 争訟
58 法人   122 争訟
59 法人 該当なし   123 処罰
60 法人 該当なし   124 処罰
61 法人 該当なし   125 処罰
62 法人 該当なし   126 処罰
63 法人 該当なし            
64 法人            

2 集計結果

(1)裁判所分類別の集計結果
  納税者勝訴 納税者敗訴 該当なし 勝訴率
地裁判決(第一審) 52 74 0 41.27%
高裁判決(第二審) 34 84 8 28.81%
最高裁判決 34 59 33 36.56%
合計 120 217 41 35.61%
         
最終判断* 46 80 0 36.51%

*各事件の最終的な勝敗

(2)論点別の集計結果
論点 勝訴率   論点 勝訴率
序説 35%   消費 14.28%
総論 44.44%   固定資産 80%
所得 28.57%   実体法他 50%
法人 42.85%   手続 40%
年度帰属 0.00%   争訟 50%
国際課税 55.55%   処罰 25%
相続 22.22%      

Ⅰ調査のきっかけ

今日では,納税者の税務訴訟での勝訴率は,5-15%と低い水準で推移している。

ところが,筆者が税法を勉強するようになり,教科書や判例集,論文などから様々な判例に触れる機会がでてくると,納税者が勝訴していることが多々あり,とても5-15%のような水準にあるとは思えなかった。

とくに,大学院の演習では,「租税判例百選」に掲載されている判例を検討する「判例報告」がメインで行われているが,納税者勝訴は全然珍しいことではなかった。

そこで,大学院で扱われるような判例は,実際どの程度納税者が勝訴しているのか把握したいと考え,本調査を行うこととした。

注 筆者は本稿執筆当時,大学院で税法を専攻する大学院生である。

Ⅱ調査の目的・方法

一般に大学院の講義などで扱われる,いわゆる重要判例と呼ばれるものについて,納税者の勝訴率はどの程度であるか把握することが本調査の目的である。

調査手順は極めて単純である。すなわち,租税判例百選の掲載判例について裁判所の判断を読み取り,その裁判の結果をエクセルにまとめるというものである。裁判結果については,次のように整理した。

・「納税者勝訴」「納税者敗訴」「該当なし」の3つに分類する。

・納税者の一部勝訴は原則として「納税者勝訴」に含める。

・百選に記述がないなどの理由から,一部上記原則のようになっていないものもある。

・「該当なし」には,控訴・上告をしなかったことにより裁判結果が存在しないもののほか,上告不受理となったもの,係争中のものなどを含む。

さいごに,調査結果を示し,若干の考察をすることとしたい。ただし,あくまで結果を示すのみにとどめ,その結果が生じた理由等については,ここでは検討していない。

Ⅳ結果の検討

1 総説

百選に掲載されている判例126事件について調査した結果,全体としての納税者勝訴率は35.61%となった。これは,税務訴訟全体の納税者勝訴率である10%程度に比べて明らかに高い水準である。

したがって,百選に掲載されるような重判例については,そうでないものを含めた全体のものよりも勝訴率が高いという当初の仮説は正しかったことが示された。

2 裁判所分類別の集計結果について

裁判所別の結果を見ると,納税者勝訴率の高い順に,地裁>最高裁>高裁となった。高裁での納税者勝訴率の低さが特徴的であった。

また,百選に掲載されているだけあって,最高裁まで持ち込まれているものが多かった。

3 論点別の集計結果について

裁判の争点となった税法上の論点別にも集計を行った。論点により納税者の勝ちやすさに変化が生じるのか検討するためである。なお,論点の分類については,「百選」に倣った。

勝訴率が最も高かったのは,「固定資産」で80%であった。次が,「国際課税」であり55%程度,その後「実体法他」「争訟」が50%で続いた。

「固定資産」「実体法他」「争訟」については,いずれも該当が5事件以下であり,何かを判断するにはデータが少ないといえよう。しかし,「国際課税」は9事件あり,一定程度結果に信頼がおけよう。勝訴率の高さも何となく想像ができるところであろう。

国税三法の中では,法人税の勝訴率が最も高かった。

Ⅴ注意点

1 調査結果について

Ⅲで示した調査結果は,筆者が百選を読み取り判断しただけのものである。作業はひとりで行われ,判旨にほとんど目を通さずに作業した箇所も多い。したがって,この結果自体にミスがある可能性があり,正確かと言われると自信がない。

調査結果の大枠に影響はないと思われるが,もし個別の判断で違和感を覚えた場合には,筆者を疑っていただくようにお願いしたい。

2 標本の偏りについて

本調査では,重要判例についての勝敗の調査が目的であり,本来であれば,筆者が普段使用する教科書,参考書,判例集から一定の基準を設けて抽出することが望ましいのであった。

しかし,筆者ひとりで作業を行わなければならないうえに,本調査ごときにそのような手間をかけるのも惜しかったので,ここでは重要判例が厳選されてよくまとまっている「租税判例百選」のみを使用することにした(それでもそれなりの労力を要した。)

したがって,調査の目的に対し,調査した標本の選定が不適切であった可能性がある。

そもそも,「重要判例」とは何か,という問題もあるし,その納税者勝訴率に何の意味があるかという疑問も当然であろうが,筆者はそのいずれにも答えられない。

 

3 結果の考察が行われていないことについて

本調査では,調査結果として様々なデータを示した。このうち,論点ごとの勝訴率をみても大きな違いがあるように,結果の違いには何か理由がありそうである。 

ところが,本調査ではそれらについての考察を試みていない。こうした理由としては,①2で指摘したように標本自体に偏りがある,②論点によっては標本の数が小さい,などの点からこれを断念したものである。 

この点は今後の課題としたい。

 

なお,もし何か気付いたことがある方は,コメントからぜひ教えていただけるとありがたい。

 

4 今回使用した「百選」について